新型コロナウイルス対応の緊急事態宣言が全面的に解除され、初の週末を迎えた。東京・浅草で人力車のサービスを運営する「時代屋」で引き手を担う碓井雅大(まさお)さん(41)は2日、人があふれる光景を眺めながら「先週に比べても倍以上に人が増えたと感じる。新しいスタートを切れたな、という気持ち」とほっとした表情を浮かべた。
2011年の東日本大震災直後は観光客が大きく減少し厳しい時期もあった。だが、ここ数年は体験に価値をおく「コト消費」の浸透もあり、ピーク日は20台以上が稼働することも。売り上げを伸ばす中で見舞われたのがコロナ禍だった。
1年を通して忙しくなるシーズンは、過ごしやすい春と秋。9月のシルバーウィークはかき入れ時だが、今シーズンは多い日でも5台ほどの稼働にとどまった。売り上げはコロナ禍前の1割程度に激減した。
2008年から人力車を引きはじめ、1万人以上を乗せてきたという碓井さん。外国人観光客はもちろん、県境をまたぐ移動の自粛が求められる中、都外から来る日本人観光客も大幅に減ったという。
コロナ禍前は人力車を走らせていると、沿道から手を振られたり、「がんばれ」と声をかけられたりすることも多かった。だが、今は街行く人々との会話はほとんどなくなった。「みんないっぱいいっぱいなのかな。寂しいです」
東京五輪を心待ちにしていたが、浅草で「祭りの雰囲気」を感じる機会はほとんどなかった。感染者が増えれば客が減り、減れば客が増える。「1年半以上、ずっとコロナに振り回される」日々だった。
これまでの流れも考えれば、いつ感染拡大がぶり返してもおかしくないと思う。それでも、最近は2回の接種を終えた高齢者が乗ってくれる機会も少しずつ増えてきた。「人力車に乗ることって理屈抜きに楽しくて、心のゆとりにつながると思う。もっとお客さんの笑顔が見たいです」。今回の宣言解除が、にぎわいを取り戻すきっかけになってほしいと思っている。(長野佑介)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル